牛丼チェーン3社の戦略比較:吉野家・すき家・松屋の業績から見る競争構造
🔎 ポイントまとめ
- 牛丼市場は3社による寡占構造で、それぞれ異なる成長戦略を展開
- すき家は「物量×価格」、吉野家は「伝統×健康」、松屋は「定食×付加価値」で差別化
- 利益構造の中核は、FLコスト・客単価・多業態化への適応にある
- 牛丼業態は“生活の隙間”を支える外食インフラとして進化している
はじめに
全国どこでも目にする「牛丼」という存在。
駅前のビジネス街、郊外のロードサイド、深夜の繁華街——。
そこには必ず、吉野家、すき家、松屋といった3つの看板が並ぶ。
この3社はいずれも1970年代から牛丼業態を展開し、日本人の「外食習慣」を支えてきた。そして2020年代に入ってなお、成長・変革を続ける“成熟産業”として、各社は独自の進化を遂げている。
目次
- すき家:グループ最大の店舗数と価格戦略
- 吉野家:伝統的な味と「健康」軸への転換
- 松屋:定食・カレー路線による差別化
本記事では、この牛丼御三家の最新業績・利益構造・事業戦略を分析し、外食チェーンとしての競争構造を読み解く。
市場概況:牛丼市場の構造と寡占状態
日本の牛丼チェーン市場は、実質的に3社の寡占状態である。2024年時点の業績や店舗数は以下の通り:
| 指標 | 吉野家HD | ゼンショーHD(すき家) | 松屋フーズHD |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 2,000億円 | 2,221億円 | 1,000億円 |
| 営業利益 | 150億円 | 202億円 | 50億円 |
| 営業利益率 | 7.5% | 9.1% | 5.0% |
| 国内店舗数 | 約1,200店 | 約1,965店 | 約1,000店 |
上位3社だけで国内牛丼店舗の90%以上を占め、他の外食ブランドが参入しにくい構造が長らく続いている。
牛丼という業態は、オペレーションの簡素化・滞在時間の短さ・価格の明瞭さから、大量出店によるスケールメリットが極めて重要になる。そのため、一定以上の規模がなければ戦いにくい“参入障壁”が構造的に存在している。
最も売上が大きいのはすき家を運営するゼンショーHDで、約2,200億円に達する。これは多ブランド戦略(はま寿司、なか卯、ココスなど)を展開する企業規模の大きさによるものだが、すき家単体でも約1,400億円(推定)を占めており、吉野家を上回る。
営業利益率ではゼンショーHDが9.1%と最も高く、続いて吉野家の7.5%、松屋は5.0%にとどまっている。規模の経済とコスト最適化が進んでいるゼンショーの強みが浮き彫りになる
店舗展開戦略の違い──数か、密度か
3社はそれぞれ異なる出店方針を取っている:
- 吉野家:駅前やオフィス街など都市部の一等地に集中。出店密度はやや低いが、滞在率と回転効率を重視。
- すき家:ロードサイドを中心に全国津々浦々へ網の目展開。地方部でも最寄の牛丼店はすき家であるケースが多い。
- 松屋:住宅街・中規模商圏に出店し、「定食屋」としての存在感を築いている。
顧客から見た違い:牛丼単品における差
浅井戦略研究所による店頭調べ(2025年6月時点)では、一般的な主力商品の税込価格は以下の通り:
| 比較内容 | 吉野家HD | ゼンショーHD(すき家) | 松屋フーズHD |
|---|---|---|---|
| 価格 | 498円(税込) | 480円(税込) | 460円(税込) |
| 商品 | 牛丼のみ | 牛丼のみ | 牛丼 + 味噌汁 |
松屋のみが味噌汁とのセットとなっており、かつ値段も一番安いことから圧倒的なコスパの良さが伺える

吉野家:牛丼498円(税込)

すき家:牛丼480円(税込)

松屋:牛めし460円(税込)
コスト構造の比較:原価と効率のバランス
| 指標 | 吉野家HD | ゼンショーHD(すき家) | 松屋フーズHD |
| 原材料費率 | 約35% | 約33% | 約38% |
| 人件費率(推定) | 約30% | 約29% | 約31% |
| 営業利益率 | 7.5% | 9.1% | 5.0% |
すき家(ゼンショーHD)は仕入れのスケールメリットを活かし、原材料費率を最も低く抑えている。加えて、多ブランドによる共同物流や自社セントラルキッチンの活用が効率化に寄与している。
一方、松屋は定食中心で原価率が高く、また味噌汁付きサービスの影響もあって材料費は高め。吉野家はその中間で、メニュー刷新により客単価・粗利改善を狙う。
客単価とメニュー戦略の違い
牛丼チェーンの平均客単価は、おおよそ400〜650円。だが、各社のメニュー構成により単価の引き上げ方は異なる:
- 吉野家:「牛すき鍋膳」「ねぎ塩牛カルビ丼」など季節商品で単価拡大
- すき家:牛丼+トッピング(チーズ・高菜・キムチ)で単価上昇
- 松屋:「定食(700〜800円台)」「カレー(650円〜)」が主力
つまり、松屋は客単価が高く、すき家は頻度が高い傾向にある。吉野家はその中間に位置し、「牛丼+定番の一品メニュー」の組み合わせでバランスを取っている。
FLコスト構造の違いとオペレーション
外食産業におけるコストの要素は、主にFLコスト(Food&Labor)に集約される。3社の傾向を比較すると:
| ブランド | 原価率 | 人件費率 | 備考 |
|---|---|---|---|
| すき家 | 35〜38% | 25〜27% | セントラルキッチンで効率化 |
| 吉野家 | 38〜40% | 28〜30% | 鍋商品・有人対応重視 |
| 松屋 | 39〜41% | 30〜32% | 店舗仕込み多く人件費高め |
松屋は自社炊飯・調理設備の維持がコスト高につながる一方で、「手作り感」に価値を感じる顧客を引きつける効果もある。すき家は全自動オペレーションの導入で極限まで人件費率を下げている。
ブランドポジショニングと顧客層
| ブランド | 主な顧客層 | ブランドイメージ |
|---|---|---|
| すき家 | 家族・学生・地方在住者 | 安くて多い・近所の味 |
| 吉野家 | サラリーマン・都市部住民 | 伝統・安心・老舗の味 |
| 松屋 | 30〜50代男性・定食派 | がっつり・手作り・定食文化 |
近年、すき家は「家族向け」「女性向け」戦略にも注力しており、サイドメニューやドリンクも充実。吉野家は逆に、「牛丼の元祖」としてのブランド信頼を前面に出し、差別化を図っている。
“牛丼”からの脱却と多業態展開
近年、各社は「牛丼だけでは限界がある」として、多業態化を進めている:
- すき家:ゼンショーHDがココス・はま寿司・ビッグボーイなどを展開し外食コングロマリット化
- 吉野家:「はなまるうどん」を買収し、麺業態とのクロス販売を推進
- 松屋:「マイカリー食堂」「松のや(とんかつ)」など姉妹ブランドを独立展開中
つまり、牛丼は“入口”であり、企業は“多角化”で成長を維持している。もはや“牛丼企業”という表現は正確ではなく、各社とも業態開発・FC戦略・DX推進へとフェーズを移している。
デジタル施策とモバイルオーダーの導入
牛丼業界もまた、デジタル変革を迫られている。各社はアプリ・モバイルオーダー・セルフレジの導入を進めており、以下のような違いが見られる:
- すき家:モバイルオーダー完備・LINEキャンペーンの多用
- 吉野家:モバイルオーダー+Uber連携・クーポン戦略を強化
- 松屋:モバイル決済・セルフレジ導入率は業界随一
松屋は早期から券売機を導入していたこともあり、省人化と非接触オペレーションにおける先進企業といえる。すき家と吉野家も、各種デリバリーアプリやSNS広告の活用によって、若年層へのリーチを拡大している。
既存店売上高の推移と“外食回帰”
2020年のコロナ禍により、一時的に牛丼各社の売上は落ち込んだ。だが2022年以降は外食回帰傾向が顕著で、既存店売上も回復基調にある:
| 年度 | 吉野家 | すき家 | 松屋 |
|---|---|---|---|
| 2020 | 88.3% | 92.1% | 90.5% |
| 2021 | 97.2% | 99.0% | 96.4% |
| 2022 | 102.6% | 104.3% | 100.8% |
| 2023 | 108.1% | 110.7% | 106.3% |
※いずれも前年同月比(既存店ベース)
最も回復が早かったのはすき家で、郊外立地とドライブスルー対応店舗が多いことが寄与している。吉野家・松屋も都市部客層の戻りとともに、安定した成長を見せている。
今後の競争構造と成長の余地
牛丼という「安くて早い」外食カテゴリーは、すでに日本の生活インフラに近い存在となっている。そのなかで、今後の差はどこでつくのか?
- 健康対応メニューの強化(糖質オフ・高たんぱくなど)
- 値上げと単価上昇に耐えるブランド力
- 業態のハイブリッド化(牛丼+カレー・定食)
- セルフ・デリバリー・デジタルの最適化
単なる「安さ」ではなく、“日常性 × 健康 × テクノロジー”という三位一体の競争軸にシフトしていく可能性が高い。
その中で、どの企業がどのような「生活価値」を提供できるかが、次の時代の鍵を握る。
まとめ – 牛丼は「単品ビジネス」ではなく「生活産業」である
牛丼はもはやただの料理ではない。
- 安くて早い
- メニューが豊富
- 一人でも家族でも使える
- 持ち帰り・デリバリーにも対応
- 無人レジやアプリ決済にも順応
このように、日本人の“日常のすき間”を満たす機能がすべて詰まっている業態へと進化している。
吉野家・すき家・松屋という3社の戦いは、単なる「味」や「価格」の話ではなく、現代人の生活導線にどれだけ寄り添えるかという総合力の勝負に変わりつつあるのだ。
参照
この記事で用いたデータは以下の各社IR資料に基づいています。
- 吉野家ホールディングス:https://www.yoshinoya-holdings.com/ir/
- ゼンショーホールディングス:https://www.zensho.co.jp/jp/ir/finance/
- 松屋フーズホールディングス:https://www.matsuyafoods-holdings.co.jp/ir/
- 日本フードサービス協会:外食市場動向調査(既存店売上)
- 日経MJ・外食産業新聞社:業界トレンド・新業態報道
🔎 ポイントまとめ
- 牛丼市場は3社による寡占構造で、それぞれ異なる成長戦略を展開
- すき家は「物量×価格」、吉野家は「伝統×健康」、松屋は「定食×付加価値」で差別化
- 利益構造の中核は、FLコスト・客単価・多業態化への適応にある
- 牛丼業態は“生活の隙間”を支える外食インフラとして進化している



