公衆電話の現在地:絶滅寸前のインフラが生き残る理由
🔎 ポイントまとめ
- 公衆電話は法制度により全国で設置義務がある
- 利用率は極めて低いが、ゼロではない
- 維持コストはユニバーサルサービス料でカバー
- 災害・防災・観光など“非常時”に向けた再評価が進む
はじめに
スマートフォンが日常の必需品となった今、街角でふと見かける公衆電話は、どこか過去の遺物のように映る。しかし実際には、日本全国におよそ10万台(2024年現在)の公衆電話が今も維持されている。使う人はほとんどいない。それでも「撤去されない」このインフラには、見過ごされがちな社会的機能と法制度が存在する。本稿では、消えそうで消えない公衆電話の生存理由を、制度・利用実態・経済性の観点から読み解いていく。
目次
なぜまだ残っているのか?:法律とユニバーサルサービス
公衆電話が撤去されない最も大きな理由は、「ユニバーサルサービス義務」にある。電気通信事業法により、電話網はすべての国民が公平に利用できることが求められており、公衆電話はその一環として維持されている。
特に災害時における通信手段の確保は最重要事項とされており、停電時にも使えるよう、アナログ回線を使った「第一種公衆電話」は都市部を中心に設置が義務づけられている。
データで見る現状:
- 公衆電話設置台数:約10万台(総務省、2024年)
- 利用件数:1台あたり月平均5回未満(NTT東西、2023年)
- 第一種公衆電話:小学校区に最低1台設置義務あり
利用者が“ゼロではない”という現実
たしかに一般的な利用頻度は激減している。だが、「全く使われていないわけではない」というのも事実だ。特に以下のようなケースで利用されている:
- 携帯を持っていない高齢者や子ども
- 災害時の通信手段(特に東日本大震災以降、見直されている)
- スマホの電池切れ、電波圏外、財布を忘れた際の緊急利用
- 海外観光客やバックパッカーの利用
2021年には、ある女子高生がスマホを落とした際、公衆電話で家に連絡を入れたというエピソードがSNSでバズり、「逆に新しい」と話題になった。利用は稀でも、“最後の頼みの綱”として
公衆電話ビジネスは“赤字”なのか?
公衆電話の維持は、採算だけを考えれば当然赤字である。NTT東西では、公衆電話事業は全体収益のごく一部にすぎず、その赤字分は他の事業収益と「ユニバーサルサービス料」で補填されている。
ユニバーサルサービス料とは、すべての携帯電話契約者から1回線あたり数円ずつ徴収される費用で、NTTの固定電話や公衆電話の維持に充てられている。2024年現在、1契約あたり月額1.1円が設定されており、これが全国の1億回線から集まることで、最低限のサービス維持が可能となっている。
撤去される公衆電話、残される公衆電話
すべての公衆電話が等しく残るわけではない。NTTは利用頻度や立地、災害拠点の有無をもとに、「残すべき場所」と「撤去すべき場所」を毎年精査している。撤去が進む一方で、逆に新設・再設置されるケースもある。たとえば:
- 観光地(インバウンド向け)
- 防災拠点(避難所など)
- 鉄道・空港ターミナル
また、コロナ禍以降は消毒対応やキャッシュレス対応の公衆電話(ICカード専用)の導入も進み、再び“公共インフラとしての価値”が模索されている。
おわりに:公衆電話は「儲からない」からこそ残す価値がある
通信インフラの中で、公衆電話は「経済合理性」よりも「公共性」で維持される稀有な存在である。利用率は低下し、収益には結びつかない。それでも、公衆電話が果たす社会的役割――緊急時の命綱、デジタルデバイドの緩衝装置、そして“いざというときの保険”としての機能は、まだ完全には代替されていない。
ある意味で、公衆電話は「使われないこと」こそが理想なのかもしれない。それでも確かにそこにある――そんなインフラが、現代にも必要とされている。
参照
- 総務省「ユニバーサルサービス制度の概要」(2023年)
- NTT東日本・西日本 公衆電話利用状況報告(2023年)
- 日本経済新聞「公衆電話はなぜ撤去されないのか」(2022年)
- NHK「今も残る公衆電話、その理由」(2023年8月)
- ユニバーサルサービス支援機関「制度説明資料」(2024年)
🔎 ポイントまとめ
- 公衆電話は法制度により全国で設置義務がある
- 利用率は極めて低いが、ゼロではない
- 維持コストはユニバーサルサービス料でカバー
- 災害・防災・観光など“非常時”に向けた再評価が進む



