“地銀のリブランディング”最前線:なぜ今カフェやコワーキングを始めるのか?
🔎 ポイントまとめ
- 地銀は“収益構造の限界”と“店舗の余剰化”によりビジネスモデル転換が必須に
- カフェやコワーキングは、空間の再活用と若年層接点づくりを両立する装置
- 収益性だけでなく、ブランド資産・地域との関係構築が主目的
- 今後は“まちの場”としての支店が主流となる可能性も高い
はじめに
ある日、駅前の商業施設を歩いていると、ふと目に留まったのは“地元銀行の名前が入ったカフェ”だった。白木のカウンター、無料Wi-Fi、ハンドドリップのコーヒー。入口のガラス戸には「お金の相談もできます」と添えられている。
このような光景は、もはや地方に限らず全国各地で見られるようになってきた。カフェだけではない。コワーキングスペース、創業支援拠点、観光案内所、マルシェ、図書館のような施設が、銀行の空き店舗や一部スペースを活用して登場している。
「なぜ銀行が、コーヒーやシェアオフィスを?」という違和感。それは同時に、地銀の再定義が進んでいることの表れでもある。
本稿では、“地銀のリブランディング”として、なぜ今カフェやコワーキングを始めるのかを掘り下げ、地銀の置かれた環境変化と、それに応答する新たな地域金融モデルの最前線を解き明かす。
目次
地銀ビジネスモデルの構造的限界──なぜ転換が必要なのか
全国に100行を超える地方銀行・第二地銀が存在してきたが、2010年代以降、そのビジネスモデルは大きな転換点を迎えている。
最大の要因は「預貸率の低下」だ。超低金利環境が長く続き、貸出による利ざや(貸出金利-預金金利)では、もはや十分な収益を確保できなくなった。また、個人預金が膨らむ一方で、融資需要は中小企業の設備投資抑制などで減少傾向。地域に“貸す先”がいない構造的問題に直面している。
さらに、人口減少と高齢化が地方を直撃している。2000年代初頭に比べ、多くの地方都市ではマーケットそのものが縮小しており、従来型の店舗展開や人海戦術は持続困難だ。
このような状況下で、「銀行=金融サービス提供機関」という前提そのものが揺らぎはじめている。収益構造も、店舗戦略も、そもそもの存在意義も、ゼロベースで再定義する必要が生じている。
余剰店舗は“負債”か“可能性”か──リアルアセットの再定義
地銀はかつて、地域に密着した“支店網の強さ”を武器としてきた。しかし、ネットバンキングの普及やスマートフォンでの金融手続きが主流化する中で、支店という物理的なプレゼンスは徐々に重荷となっている。
実際、2004年に約13,000店あった全国の銀行店舗数は、2023年には約7,400店にまで減少。今後さらに統廃合が進むとされている。
ただし、これは同時に「余剰となったリアルアセット(=店舗不動産)をどう活かすか?」という転換のチャンスでもある。中心市街地にある路面店、駅前の好立地、旧行舎の大空間といった資産は、地域社会の新たな“場”として再生し得るポテンシャルを秘めている。
そこで登場したのが、カフェ・コワーキング・イベントスペースという新たな形態である。これは単なる空間の有効活用にとどまらず、「人が集まる場所」を作り出し、金融機関と住民・起業家・行政・観光客をつなぐ“地域のハブ”を目指す戦略的リブランディングなのだ。
なぜカフェやコワーキングなのか?──“第三の居場所”としての金融空間
カフェやコワーキングという業態は、単なる空きスペース活用ではなく、「人と情報の交差点」を形成するための装置だ。
銀行の“第一の役割”が金融、“第二の役割”が企業支援だとすれば、これらの場が担う“第三の役割”は、「地域内外のプレイヤーをつなぐこと」にある。
たとえば、銀行の1階を開放したカフェ空間では、地元のクリエイターや起業家が集い、銀行員が気軽に声をかけることができる。投資相談や創業支援も、形式ばった会議室ではなく、日常の対話の延長で生まれるようになっている。
また、コワーキングスペースは、創業支援・スタートアップ支援の拠点としても機能する。インキュベーションセンターとの連携や、行政の産業振興拠点としての活用など、複合的な使い方が模索されている。
つまり、銀行が物理的空間を“地域の開かれた場所”に転換することで、「信用供与」だけでなく、「場の提供者」としての機能を持ち始めているのだ。
北國銀行の先進事例──“金融×カフェ”のブランド転換
この分野で最も象徴的な存在といえるのが、北國銀行(石川県)だ。同行は、2017年に金沢駅前にオープンした「Hokkoku Bank D-KANDA」で、銀行店舗とカフェ・イベントスペースを融合させたモデルを打ち出した。
この拠点では、口座開設や資産運用相談といった金融サービスに加え、地元の起業家や観光客が自由に滞在できる空間を提供している。バリスタが常駐し、店内はデザイン性の高い木材とガラスの構造。まるでIT系のコワーキング施設のような雰囲気だ。
さらに、北國銀行は本拠地の金沢以外でも“ノンバンク化”を進めている。東京・渋谷には「おカネの相談カフェby北國銀行」を開設。石川県外でのブランドプレゼンス強化を図っている。
同行の取り組みは、単なる“おしゃれな店舗”ではなく、「金融機関としての認知と信頼」を、空間体験を通じて再構築する試みだと言える。
千葉・福岡・常陽──地域を巻き込む実践モデル
北國銀行に続くように、全国の地銀が「非金融空間としての支店」を模索している。
たとえば、千葉銀行は柏の葉キャンパス駅前に、銀行・スタートアップ支援・カフェを複合した施設「ちばぎん柏の葉オフィス」を展開。地元ベンチャーとの協業や学生向けのセミナー開催などを通じて、“地域経済のハブ”として機能している。
福岡銀行は、商業施設「MARK IS 福岡ももち」内に「福銀ももち支店 with MACHI café」を開設。カフェ併設型で、住宅ローン相談や資産形成セミナーを実施し、ファミリー層との接点を広げている。
常陽銀行は、茨城県つくば市にオープンした「PLACE 849」という複合施設で、店舗跡地をコワーキング・ギャラリー・地域物産販売の場へと変貌させた。地元作家との協業イベントなどを通じて、“銀行×文化”の共創空間として注目を集めている。
これらの取り組みは、単なる空間貸しではない。「金融と非金融の境界をなくし、地域にとって本当に必要な存在とは何か」を模索する、進化形の支店モデルといえる。
金融の“非金融化”──まちの商社としての地銀
近年、地銀が注力しているのは、金融商品だけにとどまらない「非金融ビジネスの多角化」だ。
なかでも注目されるのが、“地域商社”的な動きである。
たとえば、北洋銀行(北海道)は地元特産品を首都圏で販売する「HOKKAIDO GALLERY」を東京・有楽町に展開。福井銀行は「ふくいマルシェ」を通じて、地元の農産物や食品を都市部へ流通させる。
これらの活動は、「金融=金の流れ」だけでなく、「モノや人の流れ」を創出することを目的としている。支店は、単なる金融サービスの提供拠点ではなく、“地元と外部をつなぐゲートウェイ”としての役割を果たすようになってきた。
銀行員も、資金調達のプロではなく、「地域価値の編集者」として振る舞うことが求められている。
収益構造はどう変わる?──“場の提供”が生む新たなビジネス
気になるのは「儲かるのか?」という問いである。
結論から言えば、単体での大幅黒字化は困難だが、「間接収益+ブランド資産」としての価値は非常に大きい。
具体的には次の3点が収益源として挙げられる:
- 不動産活用収益:遊休店舗をカフェやコワーキングに転用し、賃貸収益を得る。
- 金融商品のクロスセル:場の提供から生まれる信頼関係が、投資信託・住宅ローンの販売に波及。
- 地元事業者とのBtoB連携:物産展・地元ブランド支援を通じたコンサル報酬や販路仲介料。
加えて、「若年層とのタッチポイント」や「従業員満足度の向上(働く誇り)」など、金額換算しにくい資産効果も無視できない。
つまり、カフェ=収益装置というよりも、**支店というリアル資産の“アップデート”**として捉えるのが本質に近い。
M&A・外部資本との連携も進む
このようなリブランディングの動きは、地銀単独では進めにくい面もある。そのため、以下のような動きが活発化している:
- 外部事業者との共同運営:カフェや空間プロデュースを得意とするデザイン会社・飲食企業との連携
- 自治体・大学との共創:地方創生事業との協業により補助金を活用
- スタートアップとの協業:FinTech企業やリモートワーク支援企業と提携し、新しいサービスを展開
また、グループ内に地域商社・不動産会社・観光支援会社を設立し、銀行外収益を構築しようとする流れも広がっている。これは、収益の柱を「金融+非金融」に分散する試みだ。
今後はこうした「複合的エコシステムの設計力」が、地銀の生き残り戦略として鍵を握る。
2040年、銀行支店は“まちの場”になる
2040年、銀行支店の姿は大きく変貌しているだろう。
そこにはもう、行員のカウンターやATMが並んでいないかもしれない。代わりに、地域産品のマルシェ、創業者同士のピッチイベント、学生向けの起業講座が行われ、そこかしこでコーヒーを飲みながら議論が交わされている。
そこは、金融という機能が埋め込まれた、“地域のオープンプラットフォーム”だ。
リブランディングとは、単なるイメージ刷新ではない。「地域金融とは何か」を根源から問い直し、人が集まり、人が動く“場”を再構築することに他ならない。
参照
- 金融庁『地域銀行の動向と収益力の現状』2023年版
- 北國フィナンシャルホールディングス IR資料・メディア掲載事例
- 日本経済新聞「銀行店舗、10年で4割減」2023年3月
- 千葉銀行・福岡銀行・常陽銀行 各社広報・PRページ
- 内閣府 地域活性化支援施策報告(地方創生交付金関連)
- 月刊事業構想『地銀の未来戦略特集号』2024年1月号
- JBpress『カフェと化す地銀支店:その狙いとは?』2023年10月
🔎 ポイントまとめ
- 地銀は“収益構造の限界”と“店舗の余剰化”によりビジネスモデル転換が必須に
- カフェやコワーキングは、空間の再活用と若年層接点づくりを両立する装置
- 収益性だけでなく、ブランド資産・地域との関係構築が主目的
- 今後は“まちの場”としての支店が主流となる可能性も高い



