韓国コスメ経済圏: 新大久保から”肌管理”までの消費変化
🔎 ポイントまとめ
- 韓国コスメは「安い」イメージから「成分・機能・ブランドで選ばれる」評価軸へ移行した。
- 輸出志向の産業構造が高速な商品投入と高機能化を支えた。
- K-POP・ドラマとSNSがトレンドを拡散し、コスメを理想の再現手段として定着させた。
- 新大久保の現地体験に加え、オンライン情報・ECが継続購買を作る入口になった。
はじめに
「韓国コスメ=安い」というかつてのイメージは、近年「質の高さ/先進的/ファン化」へと変化してきた。SNSにおける圧倒的な拡散力や、ポップカルチャーとの連動による高い訴求力を持つ韓国コスメの消費変化を、①輸出・産業動向のデータ、②K-POP・韓国メイクの流行、③日本国内の受容という3点から整理する。
結論として、韓国コスメは当初の「新規性(例:ティント、クッションファンデ等)と価格のバランスで支持される」フェーズから、現在は「成分・デザインが重視され、機能やブランドイメージで選ばれる」フェーズへと、段階的に評価軸がスライドしたと捉えるのが妥当である。
ただし「安いイメージが消えた」のではなく、プチプラから高付加価値までが同時に成立する多層な市場となった点が極めて重要である。
韓国化粧品産業の輸出志向と成長
韓国コスメが世界で存在感を増した背景には、2010年代以降、海外市場を意識した輸出拡大が続いてきたことがある。Cosmoprof × Statista の資料では、韓国の化粧品輸出額は2015年の24億ドルから2024年の86億ドルへと約10年間で大きく伸びており、主要輸出先は米国、中国、日本となっている。このように、韓国コスメの輸出額は増加傾向を示しており、中国・米国・日本を中心に海外市場での展開を広げてきたことが確認できる。
この成長を支える中身として大きいのが、OEM/ODM(受託製造)企業の発達である。ジェトロは、韓国のOEM/ODM企業が「短期間で新商品を市場投入し、話題を作り続ける」循環を下支えしてきた点を指摘している。さらに研究開発投資も厚く、研究所の集約や海外拠点づくりなど、技術面の土台が強化されてきた。こうした供給力があるからこそ、クッションファンデのような革新的な製品形式も、グローバルに広がりやすかった。
加えて、政府側もK-Beautyを成長産業として後押ししてきた。ジェトロは2019年の育成方案や2021年の総合戦略など、政策面の整理を行っており、関係省庁が連携して海外展開支援や規制面の見直しを進めていることが示されている。
以上を踏まえると、K-Beautyはたまたま当たった流行ではなく、輸出を前提に回る産業として発展してきたといえる。「K-Beautyの強さ」は単なる安さではなく、①輸出市場の拡大と多角化、②政策による海外展開・規制整備の後押し、③企業のR&Dと新しい製品形式の創出が組み合わさって成立している。
K-POPと韓国メイクの拡散
産業側の成長という供給面だけではこれほどまでの爆発的な需要は生まれない。韓国コスメの拡大を支えた決定的な要因は、K-POPや韓国ドラマ、そしてSNS上のメイクチュートリアルに代表される「カルチャーの輸出」である。
2010年代後半、日本におけるK-POPの再拡大を起点として、アイドルの“顔”そのものが美容トレンドとなった。同時期にはTWICEやBLACKPINKといったグループが「第三次韓流ブーム」の象徴として登場したことは、当時のメディアの記録からも明らかである。2017年のBLACKPINKの日本デビュー時に見られた熱狂や、TWICEのNHK紅白歌合戦への出場は、韓国発の視覚情報が日本の若年層へダイレクトに輸入される環境が完全に整っていたことを示している。
この「なりたい顔」という理想の提示に対し、SNSは再現可能な手順を供給した。YouTubeやInstagramを中心に、韓国や日本の美容系インフルエンサーが詳細な韓国風メイク解説動画を拡散したことにより、韓国の”顔”人気はアイドルに留まらず、消費者が「真似できる憧れ」として日常に溶け込んでいった。当時の韓国メイクは「オルチャンメイク」と呼ばれ、水光肌(ツヤ肌)、平行眉、涙袋、グラデーションリップといった、模倣しやすい明確な特徴を備えていた。
このプロセスにおいて、韓国コスメは単なる輸入化粧品ではなく「理想の顔を実現するための道具」としての機能を果たし、特にクッションファンデーションとティントの2カテゴリは、カルチャーと消費者を繋ぐ役割を担った。MISSHAが2015年に日本で発売したクッションファンデが、わずか1年半で500万個を売り上げたという記録はその象徴である。「タッチ」「いつでもどこでも」「水光肌」といった新しい価値観が、時短や利便性という実利とともに日本市場へ浸透した。同様に、内側から染まるようなグラデーションリップを容易に再現できて、色が落ちにくいティントリップも、その高い機能性と色持ちによって、2017年頃には韓国発の定番アイテムとして不動の地位を築いた。
カルチャーがトレンドを仕掛け、SNSがコンテンツを拡散し、産業がモノを供給した。韓国コスメが単なる一時的な流行品に終わらず、確固たる実用品として需要を獲得したのは、この三位一体の構造が機能した結果であるといえる。
新大久保という都市的入口
日本における韓国コスメの普及はオンラインではなくオフラインから始まった。象徴的な場所が東京・新大久保である。
韓国料理、K-POP、雑貨、コスメが集積するコリアタウンとして認知されている新大久保。ここでの消費は通常の化粧品購買とは異なり、韓国旅行の代替体験やK-POP文化の延長、土産的購入などといった文化的・社会的意味を伴っていた。
購入者の中心は学生や若年女性で、価格の手頃さから複数の商品をまとめて購入する傾向があり、パッケージの可愛さや分かりやすい機能表示は、短時間の滞在での購買を促進した。
この段階では、韓国コスメは日常の基礎化粧品というより「試してみるもの」であり、安価であること、新規性が重要な要素だった。
コロナ禍以降、この新大久保の位置づけはさらに変化する。渡航制限によって実際の韓国旅行が困難になる中、新大久保は「疑似渡韓」の場として再び注目を集めた。同時に、韓国コスメブランドによる期間限定のPOP UPストアやフラッグショップが相次いで展開されるようになる。
従来の新大久保は、雑多に商品が並ぶ「買い場」であった。しかしPOP UPストアやフラッグショップはブランド単位で設計された「体験空間」である。巨大なビジュアルパネル、フォトスポット、成分を強調した展示、SNS投稿を前提とした導線設計など、単なる販売ではなく「世界観の提示」が中心となる。
この段階で、韓国コスメは「安く試せる革新的な商品」から「ブランド体験を伴う商品」へと位置づけを変え始めた。
また、POP UPでは従来よりも成分や機能を前面に出したプロモーションが増えた。CICA配合、レチノール美容液、高濃度ビタミンCなど、具体的な効能を示す言葉が大きく掲示される。ここでの体験は、単なる“韓国っぽさ”ではなく、“何に効くか”という合理的な情報と結びついていた。この変化は、日本における韓国コスメの受容が、文化消費(韓国っぽい)→体験消費(楽しい・映える)→機能消費(効く・成分で選ぶ)へと段階的に移行していることを示唆する。
新大久保は、単なる韓国の流行の発信地ではなく、韓国コスメが「雑貨的輸入品」から「機能を持つブランド」へと転換する過程を可視化する都市装置となった。
評価軸の変化
2010年代終盤、SNSとECの普及により韓国コスメの受容は大きく変化する。YouTube、Instagram、TikTokではレビュー動画、スウォッチ、成分解説などが大量に共有されるようになった。
ECサイトQoo10が開催している大型セール「メガ割」は、韓国コスメの継続的な購入を促す重要なイベントとなった。Qoo10は現在は日本法人が運営しているものの、韓国発祥のECサイト「Gmarket」が前身で、韓国コスメや韓国ファッションに強いのが特徴である。メガ割は2019年から定期的に開催されており、年数回のセール時期にまとめ買いをする行動が消費者の間で定着している。この結果、韓国コスメ購買の入り口は、新大久保の現地体験だけでなく、オンライン上の情報体験にも拡張している。
現地購入となると、安さや利便性・新規性、デザインといった「分かりやすい」商品が選ばれやすくなる。しかし、消費者は製品を手に取る前に、使用感・効果・成分についての詳細な情報をSNSやECサイト等を手段としてオンラインで得ることが可能になり、韓国コスメは単発の流行商品から日常的な基礎化粧品へと位置づけを変えていった。
成分リテラシーの向上と「質」の再定義
オンラインでのレビューやスウォッチ、成分解説などの情報が簡単に手に入るようになったことで、現在の韓国コスメ評価は、消費者が製品を成分や機能で選択する傾向が強まった。CICA、レチノール、ビタミンC、ナイアシンアミド、PDRNなどの成分名は、専門知識を持たない一般消費者にも広く認知されている。
かつては「韓国のパック」と一括りに呼ばれていた商品が、現在では「ティーツリー鎮静系」「高濃度ビタミンC」「低刺激レチノール」といった、機能別のカテゴリーで指定されるようになったことは、韓国コスメが国別商品から機能別商品へと位置づけを変えたことを示している。
韓国コスメに対する「質が高い」という評価は、単に効果が強いという意味ではなく、自分の肌状態に合わせて合理的に選択できるという、コントロール可能性の高さに由来する。
まとめ
韓国コスメは単純に「安い商品」から「高品質商品」へ置き換わったのではなく、輸出を前提に回る産業基盤(OEM/ODMの供給力、研究開発投資、政策的後押し)と、K-POP・韓国ドラマ・SNSによる美的基準の拡散が結びつくことで、日本国内における受容の経路と評価軸が段階的に組み替わってきた。
初期には新大久保を中心とする「旅行代替・土産的購入」といった文化的意味を伴うオフラインの入口から普及が始まり、コロナ禍以降はPOP UPやフラッグショップによる「世界観の提示」によって体験消費として強化された。さらに、YouTube・Instagram・TikTok上のレビュー、スウォッチ、成分解説、そしてQoo10「メガ割」に象徴されるEC上の購買機会が加わることで、入口は現地体験だけでなくオンライン上の情報体験にも拡張し、購買は単発の試買から継続的な日常消費へと性質を変えていった。
したがって、韓国コスメの浸透は「安いから売れた」という説明では不十分であり、新規性と価格のバランスで支持されるフェーズから、成分・デザイン・機能・ブランドイメージで選ばれるフェーズへ評価軸がスライドしつつ、プチプラから高付加価値までが同時に成立する多層な市場として定着した点に、現在の位置づけの核心がある。
参照
- ジェトロ「K-ビューティーの軌跡と展望(1)韓国化粧品が世界に躍進」
- @cosme for business トレンドコラム「韓国コスメがフランスを抜いて対米輸出額のトップに。その歴史を振り返る」
- StatistaxCosmoprof-COSMOPROF-HONG-KONG-2025-REPORT
🔎 ポイントまとめ
- 韓国コスメは「安い」イメージから「成分・機能・ブランドで選ばれる」評価軸へ移行した。
- 輸出志向の産業構造が高速な商品投入と高機能化を支えた。
- K-POP・ドラマとSNSがトレンドを拡散し、コスメを理想の再現手段として定着させた。
- 新大久保の現地体験に加え、オンライン情報・ECが継続購買を作る入口になった。
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