ビーチサンダルと日焼け止め:夏だけ売れる市場の生存戦略
🔎 ポイントまとめ
- ビーサンと日焼け止めは“立地と天気”に左右される短期勝負商品
- 小売は“仕入れと売り切り”のギャンブル的リスクを負って展開
- SNS・PB化・天気連動型販促などの工夫で売上の安定性を追求
- SDGs・通年化の試みにより“夏だけ”からの脱却も始まりつつある
はじめに:たった2ヶ月で勝負が決まる商品がある
夏。それは飲料やレジャーだけでなく、「モノ」が最も極端に売れる季節でもある。だが、ビーチサンダルと日焼け止めは、その中でも特異だ。なぜなら、販売期間が極端に短く、気候と気分に左右される“気まぐれ市場”だからだ。
売れるのは、6月中旬〜8月上旬のわずか7週間。梅雨の長期化や酷暑すぎる気温、SNSでの流行のズレ──どれか1つでも狂えば“爆死”するリスクがある。
そんな不確実性のなかで、なぜ企業や小売はこの市場に挑み続けるのか?
本稿では、「夏だけ売れる」商品に潜むロジックとリスク、そしてそれを支える戦略について掘り下げていく。
ビーチサンダルという“売れる場所”限定の履物
ビーチサンダル(以下ビーサン)は、年間販売の8割以上を6月〜8月に集中して稼ぐ超季節特化型アイテムだ。
市場の二極化
- 100均・ファストファッション型:300円〜1,000円で使い捨ての位置づけ
- ブランド型(Havaianas/Tevaなど):2,000円〜8,000円の高付加価値層
小売の現場
- ABCマートやイオンでは、5月末から特設什器を展開。6月の父の日プロモーションで在庫を半分以上売り切る設計。
- 一方、ユニクロやGUでは「夏のラインナップの一部」として、気温上昇に応じた波状展開。
“売れる場所”に依存
ビーサンは「都会では売れず、海の近くでは瞬殺」という特性が強い。 そのため:
- 江ノ島や熱海の駅ナカ:単価3,000円でも即売れ
- 新宿・梅田の旗艦店:2,000円でも在庫過多
この「場所依存型シーズン商品」の典型がビーサンなのだ。
日焼け止めは“夏だけ”ではなくなっている?
一方、日焼け止め市場は、かつての「夏専用品」から「通年基礎化粧品」へと進化している。
国内市場規模:
- 2010年:約900億円
- 2023年:1,300億円(うち通年使用層が約6割)
トレンドの変化:
- かつては「SPF50+PA++++」の数値競争が主流だったが、現在は:
- 敏感肌・子ども用・男性用の“用途特化”
- 美容液入り・化粧下地兼用などの“機能融合”
- 資生堂・花王・ロートなどは“秋冬でも焼ける”広告を展開
購買チャネル:
- ドラッグストア:UVコーナーは6月がピーク
- コンビニ:7〜8月限定でレジ横展開(特にレジャー立地)
- Amazon/LOHACOなど:7月が年間売上ピーク
つまり、日焼け止めは「UVケア」という通年行動の中に季節ピークを持つ商品として進化している。
“仕入れと売り切り”という高難度ゲーム
ビーチサンダルも日焼け止めも、共通するのは「読みが外れたら即損」という仕入れ型商材である点だ。
売れ残りの構造:
- ビーサンは翌年への持ち越しが難しい(トレンド・色・価格変動)
- 日焼け止めは「期限(未開封3年以内)」の問題+パッケージ変更で旧品扱いに
小売の対応策:
- コンビニ:8月後半で“半額シール”の貼付/返品なし契約
- 雑貨店・ドラッグストア:7月末で売場を畳み、在庫をアウトレットへ流す
- スーパー:PB商品で“原価低減型”に振り切り、値引き前提で売り切る
このように、仕入れ=勝負であり、売り切れない=赤字確定という、「小売の博打」に近い側面がある。
そのため、「天気」「気温」「ニュースネタ」など、“外的要因”に対応できるスピードと柔軟性が鍵になる。
“天気予報と気温”で売上が決まるマーケティング
ビーサンも日焼け止めも、天気次第で売上が大きく左右される商品である。
典型的なパターン:
- 6月末の週末に晴れ予報 → ビーサン売上2〜3倍
- 気温30度を超えると日焼け止めの購買率が急増(特に男性層)
- 梅雨が長引く年は、ビーサン売上が前年比30%ダウンすることも
小売やメーカーでは、「天気に連動した広告出稿」や「気温連動型ディスプレイ」が導入されつつある。
事例:
- ドラッグストア大手では、店頭POPを“今週のUV指数”に連動して切り替え
- 一部化粧品ブランドは、「天気予報データAPI」と連携し、SNS広告を出し分け(雨の日は保湿、晴れの日はUV)
つまり、これらの商品は“天気が最大のプロモーション”という前提で設計されているのだ。
棚争奪戦——コンビニ・ドラッグストアの夏棚とは?
6月〜8月の店舗では、限られた「夏棚」をめぐって商品同士の争奪戦が起きている。
例:
- コンビニ:日焼け止め、制汗剤、冷却グッズ、サングラス、虫除けが1棚内で競合
- ドラッグストア:UVケア、アフターケア、虫さされ、熱中症対策飲料などが競合
このような棚取りは、
- 「メーカーからの販促協賛金」
- 「過去の販売実績」
- 「物流一括納品可能か」
といった多様な指標で決まっていく。
そのため、新興ブランドや小規模メーカーが“棚に入る”ためには:
- 高粗利設計(=卸に渡しても利益が出る)
- プロモーション連動企画(ノベルティ・SNS施策)
- 小ロット短納期体制
といった“足回り”の巧さが問われる。
つまり、夏の棚は「目立つかどうか」ではなく、「売れる設計があるかどうか」で決まるのだ。
SNSと“夏映え消費”が商品を変える
Z世代を中心に、「夏に映えるアイテム」がトレンドを左右するようになった。
事例:
- ビーサン×ネイル投稿 → 「足元コーデ」として拡散
- 日焼け止め×夏メイク → 「白浮きしないUV下地」がTikTokで話題
- カラフルビーサンやリフィル型日焼け止めが“バズる”
こうした動きは、
- 商品そのものがSNS投稿される
- 映える使用シーンを“商品側で演出”する
というプロモーション設計の転換を促している。
SNS映えを前提にした商品開発:
- パッケージにQRコードを載せ、投稿キャンペーンに誘導
- 日焼け止めのテクスチャー比較動画をInstagram広告に
- ブランドロゴがはっきり見えるビーサン底面設計(写真対策)
つまり、今や「SNSで紹介されない商品は存在しないも同然」という時代になっている。
なぜPB商品は夏物に向いているのか?
実は、ビーチサンダルも日焼け止めも、プライベートブランド(PB)との相性が非常に良い。
理由1:季節限定でブランド認知に頼らない
→「品質<価格」「気軽に試す」が重視されやすい
理由2:売り切り前提の原価設計ができる
→低ロット・低単価で“半額でも赤字にならない”価格戦略
理由3:他社差別化より“置いてあれば買う”行動が多い
→「これでいい」消費の典型例
たとえば:
- コンビニ各社(セブンPB、ローソンセレクトなど)の日焼け止めは、200円台から展開
- スーパーマーケットや100均では、無名PBのビーサンを5〜6色展開(200〜500円)
そのため、夏商材は「棚を取れる」=「PB化に踏み切るインセンティブが強い商品」でもある。
夏限定商品はどう“持続可能性”を目指すのか?
SDGsや環境配慮が求められる中で、「たった2ヶ月で消費され、捨てられる商品」に対する疑問の声も出てきている。
変化の兆し:
- ビーサン:リサイクルゴム使用、修理可能タイプの登場(havaianas・Teva)
- 日焼け止め:詰め替えパウチ、UVケアと同時にスキンケアを訴求
また、一部ブランドでは:
- オフシーズンに「旅行向け」「温泉UVケア」などで通年訴求
- 残った在庫をアウトレット・海外市場に回す“2ndマーケット化”
夏限定商品であっても、「一発勝負からの卒業」が徐々に始まりつつある。
まとめ:夏は短い、されど経済は深い
たった2ヶ月のために動く企画、製造、物流、小売、そして買う側の心理。
ビーチサンダルと日焼け止めは、私たちの「暑さ対策」を超えて、
- 季節との向き合い方
- 売り切り型ビジネスの限界と挑戦
- SNS時代の“映えと実用”のバランス を問いかけてくる。
“夏だけ売れる商品”は、決して儚いだけではない。 むしろそこには、「一瞬に勝つために、全力を注ぐ」企業と人の戦略が詰まっているのだ。
参照
- 富士経済「サマーレジャー市場調査2023」
- 矢野経済研究所「UVケア市場の現状と展望2023」
- 資生堂・ロート製薬:商品カタログおよびIR資料
- コンビニ各社サマーカタログ(2023年版)
- SNS投稿分析(Twitter・Instagram・TikTok、2022〜2024)
🔎 ポイントまとめ
- ビーサンと日焼け止めは“立地と天気”に左右される短期勝負商品
- 小売は“仕入れと売り切り”のギャンブル的リスクを負って展開
- SNS・PB化・天気連動型販促などの工夫で売上の安定性を追求
- SDGs・通年化の試みにより“夏だけ”からの脱却も始まりつつある



