アナログの逆襲:なぜ今“カセットテープ”が売れているのか?
🔎 ポイントまとめ
- カセットテープ市場は欧米を中心に再評価され、2023年には英国内で19万本を超える販売数に。
- Z世代のノスタルジー志向と「所有感」ニーズが復活の大きな要因に。
- インディーズ音楽や映画、アートとの親和性が高く、表現媒体として再脚光。
- デジタル疲れや“聴き流さない”体験が、アナログ回帰のムーブメントを後押ししている。
はじめに
デジタル音楽が当たり前となった現代において、カセットテープというアナログメディアが若者の間で注目を集めている。スマートフォンひとつで何千万曲にもアクセスできる時代に、なぜ“巻き戻し”が必要な音楽体験が再評価されているのか。
2020年代に入り、カセットテープの販売数は日米欧を中心にじわじわと回復傾向を見せている。2023年にはイギリス国内で19.5万本(BPI調査)を超え、日本でもTOWER RECORDSやHMVなどでの売上が前年比で倍増するなど、レコードに続く“アナログの逆襲”として市場関係者の関心を集めている。
本稿では、こうしたカセットテープ再評価の背景にある定量的な市場動向、消費者心理、そして音楽ビジネスにおける構造変化を紐解きながら、その射程を探る。
目次
カセットテープ復活の定量的データ
まずはデータから見てみよう。英国レコード産業協会(BPI)の発表によれば、2023年のカセット販売数は195,000本を突破。これは2012年比で約15倍という驚異的な伸びである。一方、米国でも2023年には33万本を記録し、2010年代の底からのV字回復を見せている(Luminate調査)。
日本では、2022年頃から主要なCDショップでカセット専門コーナーが登場。TOWER RECORDS渋谷店では2024年上半期のカセット関連売上が前年同期比で+87%と報告されている。また、購入層の約半数が20代〜30代という調査結果もあり、若年層の新たなカルチャーとして根付きつつある。
「手に取れる音楽」へのノスタルジーと感性
なぜZ世代やミレニアル世代が、あえて“巻き戻し”や“録音”を必要とする不便なメディアに惹かれるのか。その答えのひとつが、「所有と操作」というアナログならではの体験価値にある。
SpotifyやApple Musicのようなサブスクリプションサービスでは、音楽は消費される対象として次々と流れる。一方、カセットは手に取り、差し込み、再生し、終わったら巻き戻すという一連の「儀式」が必要だ。この一連の動作が「音楽を聴く」行為に没入感と所有感を与え、デジタルでは得られない情緒を提供している。
さらに、平成レトロ・昭和レトロのブームも追い風となっている。ラジカセ、ミニコンポ、スケルトンデザインのプレイヤーなど、かつて家庭にあった音響機器がZ世代にとっての“新しいカルチャー”として再発見されている。
音楽レーベルとアーティストにとっての戦略的価値
アナログ回帰は、音楽レーベルやアーティストにとっても無視できないトレンドだ。とりわけ、インディーズやサブカルチャー系のレーベルにとって、カセットは以下のような戦略的価値を持つ:
- 生産コストが安い:レコードに比べて生産・流通コストが低く、小ロット対応も可能
- 限定感を演出できる:100本限定、ナンバリング付きなどコレクター心をくすぐる
- 他グッズとの連携が容易:ZINEやTシャツとのバンドル販売で物語性を加える
特にバンドキャンプなどのプラットフォームでは、カセットの販売がファンとの深い接点として機能しており、音楽が“モノ”として届く喜びがリスナーの支持を集めている。
カセットが生むコミュニティとカルチャー
カセットの再興は、単なるメディアとしての復権にとどまらない。そこには、物理メディアを通じた“文化”と“場所”の再生がある。
たとえば、東京や大阪ではカセットテープに特化した即売会やDJイベントが定期開催されている。DJがカセットでミックスを作り、アナログ機器で再生するライブイベントは、一種の“体験型サウンドアート”として人気を博している。
また、音楽に限らず、朗読や詩、ラジオドラマ、環境音などの“音の作品”がカセットとしてリリースされる事例も増加。録音テープというメディアに「記録性」と「再生性」を兼ね備えた新たな表現の可能性が見出されている。
アナログとデジタルの共存戦略
デジタル時代のアナログ復興は、単なるノスタルジーではない。実際、多くのアーティストはカセットで限定販売を行いつつ、同時にSpotifyやYouTube Musicでの配信も実施している。
この「アナログ×デジタル」の二軸戦略により、物理メディアの熱量を最大化しながら、配信でリーチを拡張するというビジネスモデルが成立している。たとえば、カセット購入者にはQRコードで“未公開曲の限定配信”を行うなど、クロスメディア的な仕掛けも活発化している。
おわりに
カセットテープの復活は、ただの“懐古趣味”ではない。そこには「音楽をどう聴くか」「何を所有するか」という深い問いがある。Z世代や若年層にとって、カセットは単なる記録媒体ではなく、自分の感性や時間を閉じ込める“作品”であり、再生するたびに記憶をよみがえらせる“触媒”である。
デジタルに疲れた時代だからこそ、手間と時間をかけて音楽を楽しむ体験が求められている。カセットテープは、そんな時代の“音楽のかたち”を再定義しているのかもしれない。
参照
BPI(British Phonographic Industry)「2023年 UK Cassette Sales Report」
https://www.bpi.co.uk/
Recording Industry Association of America (RIAA)「2023 Music Revenue Statistics」
https://www.riaa.com/
Cassette Comeback「Why Cassette Tapes are Back in Demand」
https://www.cassettecomeback.com/blogs/articles
The Guardian「Back in the groove: why cassette tapes became cool again」(2023)
https://www.theguardian.com/music/2023/sep/15/cassette-tapes-revival
Business Insider Japan「カセットテープが再ブーム、Z世代の間で人気」
https://www.businessinsider.jp/post-284209
株式会社レトロミュージック「2023年カセットテープ国内販売動向(自主調査)」
※参考値:アナログメディア専門レポート(インディー市場含む)
🔎 ポイントまとめ
- カセットテープ市場は欧米を中心に再評価され、2023年には英国内で19万本を超える販売数に。
- Z世代のノスタルジー志向と「所有感」ニーズが復活の大きな要因に。
- インディーズ音楽や映画、アートとの親和性が高く、表現媒体として再脚光。
- デジタル疲れや“聴き流さない”体験が、アナログ回帰のムーブメントを後押ししている。



